「唐人お吉」物語の主人公“お吉”こと“斎藤きち”注1は17歳で、初代アメリカ総領事ハリスの元に看護婦名目の侍女として通通わされたことから、異人に肌を許した女だと決めつけられる“風評被害”に遭うと同時に、莫大な謝礼を受け取ったことが村人にねたまれ、徹底的な“イジメ”を受けたとされる。
※注1=漢字の“吉”は、芸者名として使われていた。
そんなお吉さんの悲劇的な物語は昭和のはじめに発表されると、爆発的なブームを巻き起こした。
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まるで何かに取り憑かれたように伊豆下田に通い始めて1年が経ち、お吉物語について興味はふくらみ、私はタウンゼント・ハリスが初のアメリカ総領事として下田へ着任した時と同じ年齢…51歳注2となった。※注2=ハリスの来日は1856年7月で、その年の10月には52歳の誕生日を迎えている。
お吉さんがハリスの元へ行ったのは、わずか17歳の頃だと言われている。私の娘とちょうど同じ年頃だ。
ハリスには妻や子供はなく生涯独身で暮らしたそうだが、それにしても、はたして親子ほど年の違うお吉との間に「唐人お吉」の物語として伝えられているようなことが本当にあったことなのかといえば、はなはだ疑問を感じざるをえない。
かの喜劇王チャールズ・チャップリンが、4人目にして最後の夫人となるウーナと結婚したのは、チャップリン54歳、ウーナ17歳の時。ウーナの父であるノーベル賞作家ユージン・オニールは、チャップリンと1つ違いで、まさしく親子ほど年の離れたカップルだったが、これはかなり特異な例だろう。
何もチャップリンを引き合いに出すまでもなく、世の中にはロリコンと言われる人たちがいることも知っている。
しかし、アメリカの代表として、日本だけでなく、アジアとの貿易交渉の全権を任された人間が、自分の欲望に任せて、軽はずみなことをするとはとても考えることはできない。それは、日米通商修好条約調印までのハリスの働きぶりを見てもわかる。
吉原遊郭を運営していたほどの幕府だから、外交的な作戦としてハリスに侍女を差し出した事実はあったにしても、結果から見れば、それがとても成功したようには思えないのだ。
昭和の初期(1928年頃)と、明治100年を迎えた昭和42(1967)年頃にブームを巻き起こした「唐人お吉」は、その後もさまざまな作家の手によって繰り返し描かれ、映画やドラマにもなった。
近年、新たに脚色されている「唐人お吉」の物語においては、同盟国アメリカへの配慮もあってか、ハリスは決して敵役としては描かれてはいないが、反米感情が強かった戦前においては、力道山に対するシャープ兄弟の如き悪役として描かれた時代もあった。
初期の「キングコング」が原始 vs 文明を描き、近代文明の力を誇示したのに対し、後に作られた「キングコング」では逆に文明の身勝手さがテーマとなっていたように、長く語り継がれる物語は、時代の要請に合わせて変化していくのが常だ。
確かに「水戸黄門」も「大岡越前」も、時代劇のヒーローたちは、もはやキャラクターだけが一人歩きをしていて、史実とはかけ離れた存在となっている。さらに最近ではゲームの世界に登場する劇画調の戦国武将たちは、みなイケメンだが、いずれの場合も、見ている側の我々は、それが真実の歴史だとは思わず、単純にドラマとして楽しんでいる。
だが「唐人お吉」物語は違う。あたかも真実であったかのように描かれ、また描かれ方によって傷つけられてしまう実在の人物や、ねじ曲げられてしまう歴史が多数あることに問題を感じてしまうのは私だけではないだろう。
このサイトは営利を目的としない、あくまでも個人運営のサイトであるが、「唐人お吉」物語とその周辺において、可能な限り資料を集め、客観的に史実を検証していきたいと考えている。
できれば関係者への取材もしたいところではあるが、なにぶん別に本業を抱えての活動となるため、当面は文献と、歴史の現場に足を運んだ際、得られた情報を基に構成していこうと思う。
より正確さが認められる新しい情報が入手できた場合には、公開した内容を随時、更新する。
そうした活動の成果を公表することで、いいかげんな歴史解説による誤解が解ければ幸いであるし、そこから、より良質な新しいエンターテイメント作品が創り出せれば、より多くの人たちにお吉さんが必死に生きた時代や下田という土地にも興味をもってもらえるだろう。
2013年4月18日
幕末お吉研究会
ペリー の下田初上陸から、ちょうど159年目の記念すべき日に記す
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